脚長差の原因 ~大腿骨転子部骨折におけるCHSやガンマネイル~
- 村田育子(Ikuko Murata)
- 2021年9月27日
- 読了時間: 5分
更新日:7月23日
「痛みなどの身体のトラブルの解決・予防」
をコンセプトに
パーソナルトレーナーとして活動しています
理学療法士の村田育子です。
「姿勢改善」「ボディメイク」を得意としています^^
本日は
「大腿骨転子部骨折による骨接合術で脚長差は生じるのか?」
というテーマでお話してみたいと思います。

【目次】
1. 大腿骨転子部骨折とは
2. 大腿骨転子部骨折に対する骨接合術
3. SHSや髄内釘で脚長差が生じる理由
4. スライディング機構の意義
5. SHSや髄内釘の術後に脚長差を評価する意義
6. まとめ
1. 大腿骨転子部骨折とは
大腿骨の「転子部(てんしぶ)」とは
大腿骨の付け根の出っ張った部分を言います
(緑色↓)

血流が絶たれてしまう頚部骨折とは違い
転子部骨折では骨癒合が見込めるため
基本的に骨接合術が選択されます。
…そう言われると
転子部骨折の方が軽傷に聞こえそうですが
実際は転子部骨折の方が若干ですが
高齢で骨粗しょう症が進んでいる人が多いと言われています。
転倒して転子部をぶつけた衝撃で
転子部が折れる(割れる)くらい骨粗しょう症が進んでいる
ということです。
2. 大腿骨転子部骨折に対する骨接合術
大腿骨転子部骨折に対する代表的な手術は
・SHS
・髄内釘
です。
「SHS」は「Sliding Hip Screw」の略で
プレートとスクリューで固定する手術です↓

CHS(compression hip screw )の名前の方が
馴染みがあるかもしれません。
(SHSは総称であり、CHSはSHSの一つになります。)
もう一つの「髄内釘」は
大きな釘を骨の中心に入れ
スクリューで固定する手術です↓

代表的なのが「ガンマネイル(γ-nail)」です。
3. SHS、髄内釘で脚長差が生じる理由
SHS、髄内釘の術後に
脚長差が生じる可能性があります。
その理由としては1つ目に
そもそも「折れた骨を全く同じに整復できない」
ということが挙げられます。
(こちらの記事参照)
2つ目に
「術後に頚部短縮する可能性がある」
ということが挙げられます。
術後に立位や歩行で体重を乗せると…

骨折部には
圧縮力 =「骨折部がめり込む方向への力」
がかかります。

「頚部が短縮してしまう力」がかかる
ということです。
この力に耐えられれば良いのですが
耐えられずに頚部が短縮することになった時…
CHS や γ‐nail では
下図のに方向にスクリューがスライドします↓

矢印の方向に
スクリューがスライドすることで
頚部が短縮するのを受け止めるのです。
つまり CHS や γ‐nail は
「頚部短縮を許容した構造になっている」
ということです。
「頚部短縮=若干の脚長差」であり
これがSHSや髄内釘の術後に脚長差を生じる理由です。
このスクリューがスライドする構造を
「スライディング機構」と言います。
(頚部短縮について こちらの記事 も参照)
4. スライディング機構の意義
ではなぜ CHS や γ‐nail は
このような「スライディング機構」を
有しているのでしょうか?
頚部短縮はやすやすと受け入れてしまって
良いものなのでしょうか?
もし頚部が短縮することになったときに
スクリューがびくとも動かなかった場合を
考えてみます↓

スクリューは「後ろには」下がれない。
しかし頚部は短縮する。
そうなるとスクリューは???
「前へ」進むしかありません。

前には何があるか?
大腿骨頭があります。
スクリューは「骨頭内」を
ゴリゴリと突き進むことになってしまいます。ヒェェェ
そして「過度に」頚部短縮すると
最終的に骨頭を突き破ってしまうことがあります↓

これを「カットアウト」と言います。
術後に最も避けたいことです。
ですが ここでスクリューが
「後ろに」スライドしてくれるとしたら
どうでしょうか?
スクリューが骨頭内を
ゴリゴリ突き進まなくても
頚部は短縮することができます。
つまり
ラグスクリューのスライディング機構は
カットアウトを予防することができる
ということです。
また骨折部が少しめり込むことで
骨折部がより圧着され噛み合い
骨癒合を促進する
というメリットもあります。
これがスライディング機構の意義です。
5. SHS、髄内釘の術後に脚長差を評価する意義
ここまで話すと
頚部短縮バンザイ!
となるかもしれませんが
…誤解のなきよう。
過度なテレスコーピングは
骨折部の不安定性を意味し
(テレスコーピング:ラグスクリューがスライドすること)
「カットアウトのリスクが高い」
ということを意味します。
なので術後のリハビリでは
過度な頚部短縮が生じていないか?
つまり
カットアウトしそうじゃないか?
と、注意を払いながら荷重を進める必要があります。

では過度な頚部短縮が生じているかどうかは
どうやって確認するのか?
それは
・レントゲン
・術側の脚長の変化(短くなってきてないか)
・荷重時痛の有無(荷重時痛が強いと怪しい)
これらが有効な情報になります。
なので術後に脚長差はチェックしておいた方が良いのです。
というか
脚長差をチェックしておかないと
最悪の事態:カットアウトに
すぐ気が付けない可能性も無きにしも非ずなので
(カットアウトすると急に脚が短くなる)
やはり脚長差のチェックは重要なのです。
6. まとめ
・大腿骨転子部骨折の骨接合術:SHS、髄内釘
・どちらもラグスクリューはスライドする構造
・スライディング機構は頚部短縮を許容している
・頸部短縮は脚長差(短くなる)の原因となりうる
・過度なテレスコーピングはカットアウトのリスクがある
・過度なテレスコーピング、カットアウトに気付くためにも術後の脚長チェックは大事
本日は以上です。
お読み頂きありがとうございました。
この記事が皆様の健康の一助となりますように(^^)/
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