【筋肉/関節のトラブルに対する解決・予防の考え方を発信しています】
こんにちは、パーソナルトレーナー・理学療法士の村田育子です。
現在「脚長差(左右の足の長さが違う)」について解説中(シリーズ目次)。

今日は
「大腿骨頸部骨折(だいたいこつけいぶ骨折)による人工骨頭置換術(じんこうこっとうちかんじゅつ)にて脚長差は生じるのか?」
というテーマで解説していきたいと思います。
・人工骨頭置換術をされた方
・ご家族が人工骨頭置換術をされた方
・術後の脚長差に悩んでいる方
に是非読んで頂きたい内容です。
【目次】
1.人工骨頭置換術で脚長差は生じるのか?
結論
大腿骨頸部骨折による人工骨頭置換術により脚長差を生じる可能性は高い
と言えます。
大腿骨頸部骨折とはご高齢の方によくある骨折です。

治療は「手術」が選択されることが多く
手術方法は大きく分けて2つあります。
(1)骨頭を人工物に置き換える手術(人工骨頭置換術)
(2)ピンを差して固定する手術(骨接合術)
理学療法士としての実際の臨床では(1)の方が多いと感じているので、本日はまず(1)の
「人工骨頭置換術で脚長差が生じる理由」から説明していきたいと思います。
2.人工骨頭置換術で脚長差が生じる理由
ではなぜ人工骨頭置換術で脚長差が生じるのでしょうか?
その理由を理解するために手術方法を確認していきましょう。
まず全身麻酔で意識がない患者さんを手術する側を上にゴロンと横向きにして、骨盤を器具で固定します。
手術しない側の脚と上半身は滅菌された紙で覆われ、手術する脚だけがあらわになった状態になります。

(南国少年パプワくんの鯛のキャラクターを思い出すのは私だけ?)
メスを入れて骨まで到達したら、骨頭を切り落とし取り出します。

次に大腿骨の髄に穴をあけます。

そしてその穴に金属棒を埋めます。
(これをステムと言います。)
ステムを埋め込むとき、カナヅチで「カンカンカン!」とクギを打つように入れていきます。

ステムの一部は骨から飛び出るかたちとなります。

次に、先程打ち込んだステムにネックを取り付けます。

次にそのネックに「小ボール」を取り付けます。

そしてその「小ボール」の上に「大ボール」を取り付けます。

そしてその大ボールをご本人の股関節(臼蓋)にはめ込んで動きをチェックします。
この大ボールのサイズはカップに対してジャストフィットする必要があります。
(小さいと脱臼のリスクあり、大きいと可動域が狭くなる。)
なので、1mm単位で大きさの違う大ボールを実際にはめ込み、どれが一番フィットするか見ていきます。
(ちなみにこのように小ボール・大ボールと2つあるのを「バイポーラ」と言い、小ボールが大ボールの中で動くことで股関節の可動域が確保されます。グッドアイディアですよね!)
そしてここで!!
ついに~!!
先生は手術している側のひざと反対側のひざとを合わせて
太ももの長さに差がないかチェックします。
そうです!
脚長差のチェックですーー!!
(ありがとうございまーーーす!)
この時、太ももの骨の長さが同じであるためには
ステムの飛び出た部分 + ネック + 小ボール + 大ボール
の長さが反対側の長さと同じである必要があります。

さて。
ここで左右の長さに差があった場合、先生はどうするのでしょうか。
対応策は以下だそうです。
①小ボールの大きさを変える。
(メーカーにも寄りますが3種類あるらしいです。)

②ネックの長さを変える。
(私が見学した時は1種類しかないメーカーでしたが、3種類くらいあるメーカーもあるそうです。)

③ステムを変更する。
(ステムを変更することで飛び出具合がちょっと変わるのだとか。)

これらの策で脚長差ができるだけ出ないよう、執刀医の先生はオペしてくれています。
しかしこれ・・・。
限界があると思いませんか?
だってこれ達「既製品」です。
大きな差は出ないにしてもミリ単位でピッタリ合わせるのはそもそも論、難しい話ですよね。
これが人工骨頭置換術で脚長差が生じる理由です。
そして私がもっと気になるのは
オペ中の脚長差のチェック方法です。
ひざとひざを合わせてチェックする時ですが、
手術しない側の脚は滅菌された紙で覆われています。

そんな「ベールに覆われた状態」でミリ単位の違いなんてチェックできないですよね(;・∀・)
そしてもう一つ。
脚長差のチェックは横向きに寝ている状態で行われます。
横向き寝の状態では、骨盤がちょっと傾いているだけで正確にチェックすることは、正直、できないと思います。
(骨盤の傾きによって股関節のポジションが変わってくるためです。脚長差のチェック方法はまた詳しく記事にします。)
でもこれって・・・
しょうがないですよね!!?
滅菌されたベールを術中に取っちゃダメだし
(感染させたいのか???)
術中にゴロゴロ患者さんを転がしてたらダメだし
(死なせたいのか!??)
という話になってきます。
以上が人工骨頭置換術で脚長差が生じる理由です。
先生は脚長差が出ないようにオペしてくれていますが、ミリ単位で合わせるのはそもそも論、限界があるよ、というお話でした。
(手術方法については私の専門分野ではないので間違えた記載があったらすみません汗、見学させてもらったことがあるくらいです、暖かい目で見て下さい笑。)
3.人工骨頭置換術によって脚長差を呈した症例
以前担当していた患者さんを紹介します。
60代女性。
夜中にトイレに起きた際に階段でふらついて転倒。
たまにしか使わない睡眠薬が効き過ぎた、と。
人工骨頭置換術が施行されました。
退院後のリハビリ目的で当時私が勤めていたクリニックに来院されました。
まず初見でぎょぎょぎょっ(゜-゜)
ビビるくらいの脚長差。
明らかに手術した側が長い。
レントゲンで確認しても明らかな差。
手術した側のひざを曲げてないと立っていられないくらいの差でした。
そんなこんなで手術した側のひざ周囲の筋肉は硬くなっていて
「とにかくひざが痛くて・・・手術したところは大丈夫なんだけど・・・」とのこと。
この方はインソールだけでは対処しきれず
アウトソールも駆使して何とか許容範囲内に脚長差を補正し、
ひざの痛みは改善に向かったことを覚えています。
確か差が大きくて完全にピッタリまで合わせることができなくって
「許容範囲内でしょう!」
というところで2人で相談・検討して落ち着いた記憶があります。
正直、腰など他の部位は今頃は大丈夫かなぁと少し心配ですが、元気でいらっしゃることを願います。
このように、人工骨頭置換術により脚長差を呈す症例は少なくありません。
私の臨床経験では、術側が長くなっているケースが多い印象を受けています。
ミリ単位で見ていくとほとんどの症例に差があると言わざるを得ない状態であり、
術後のリハビリでは「脚長差対応はルーティンだな」と感じています。
4.まとめ
・大腿骨頸部骨折に対する人工骨頭置換術で脚長差を生じる可能性は高い
・理由1:使用する金属はそもそも既製品
・理由2:術中、反対側のひざは紙に覆われた状態で脚長差チェックが行われる
・理由3:術中、側臥位の状態で脚長差チェックが行われる
・人工骨頭置換術によって生じる脚長差への対応は
股関節のためだけでなく全身のトラブル回避のためにも重要っ!
お読み頂きありがとうございました。
この記事が誰かの身体のトラブルの解決の糸口となりますように。
次の記事
トラブルの根本原因を追究
少人数でみっちりフォロー
週1回の運動習慣
ボディメイクを目指す方に